!遠赤外線のQ&A集!

 

事業紹介

遠赤外線ヒーターのAMK

 営業活動やメール・電話での質問の中から皆様にもお知らせしたほうが良いと思われる代表的な物を集めてQ&A集を作成してみました。お役に立てば幸いです。

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なおご質問ご意見がありましたらご遠慮なく表紙のお問い合せ先よりメールください。よろしくお願いいたします。

!遠赤外線のQ&A集!(No.1~20) ⇒(No.21~42)はこちらから

1.遠赤外線加熱炉にはどんな特徴があるのでしょうか。

 遠赤外線ヒーターを配置した面に平行に被加熱物を連続的に搬送させ加熱することが一般的な遠赤外線加熱炉であります。
 これにより加熱処理時間の短縮、品質の向上、工程合理化、省力化ができるのが大きな特徴であります。
 そのため熱風炉から連続式遠赤外線炉への転換が進んできたことは知られていることです。ただし光と同じ作用であることから、陰になる所、立体形状でヒーターからの距離が部位により異なる場合、ファンを併用しても均一加熱は難しいことが多いのです。
 ところがこの常識を覆す使用方法で効果を上げている例が多く見られます。ニンニクの熟成では部屋の真ん中に遠赤外線ヒーターをおいて生産しています。ホタテ貝柱、干し柿、昆布等でも品質は従来品以上で時間短縮もできている報告があります。木材でも同様な例が報告されています。
 これは均一照射ができていないどころか部屋を暖めているに過ぎない感じです。考え方としては部屋内部が遠赤磁場的なものとなっているのかもしれません。ただし低温加熱(60℃以下)で1日以上かかる主に食品関係が多いように思われます。

2.小物部品の乾燥でバラツキが出てうまく乾燥できません。

 従来は単一部品を遠赤乾燥炉に流していたが、多品種少量生産になり様々な小物部品を混合して流したところ、焼きの甘い部品、焼き過ぎの部品等が出てきたと連絡がありました。
 調査したところ50~10mmφ、厚みが10~1mmtの混合であったため、各部品の材質差(比熱の差)、重量差、受光部面積の差があるため昇温速度の差が生じているのが原因でした。
 対策として材質の同じものをグループ分けするか、厚さ、受光部面積によりグループ分けしそれぞれ加熱テストをし搬送速度を変えるか加熱温度を変えなければなりません。
 対策の結果 手間が増えましたが遠赤の効果により他の加熱方法より有利のままでした。

3.遠赤外線で塗装乾燥すると効率的だと聞いたのですが。

 遠赤外線による塗装乾燥のメリットは時間短縮は無論のこと、塗膜硬度の向上、光沢の向上、耐候性の向上等がよく知られています。しかし塗料メーカーからのスペックでは熱風乾燥炉用となっているので遠赤炉を設計する場合、加熱テストをし加熱条件を設定する必要があります。そのためには塗装乾燥のメカニズムの概要も知っておく必要があります。
 対流加熱の場合、塗膜表面近傍の薄い空気層は接触抵抗により流速が低下しています。そのため熱源からの熱伝達を低下させるため強制的にこの層を除去しなければ効率的に加熱できません。
 遠赤外線加熱は直接放射エネルギーが塗膜に直接照射するため、この層の影響を受けずに塗膜に作用し、内部まで速く伝達します。そのため塗膜表面と内部の温度差が小さくなることにより溶剤の蒸発が均一となりクラックやピンホールの発生がしにくくなります。
 さらにほとんどの塗料は3μ以上の所に吸収体を持つことから遠赤加熱は非常に効率良く加熱できます。また加熱により対流も起きますからさらに効率が上がります。塗膜表面の蒸気層を除去する働きをしますがファンを用いることにより強制的に除去すれば非加熱物の温度ムラも解消できます。

4.遠赤外線は物質の内部から加熱するから速く処理できるというのは本当でしょうか。

 遠赤外線は物体の中まで深く浸透しません。物体表面の0.1mm程度のごく薄い層でほとんど吸収されます。
その吸収熱量は非常に大きく物体内部へ熱流となって伝達されます。そのエネルギーはヒーター温度が一定なのでほとんど同量で物体を加熱します。つまり内部と表面とがほとんど同じ温度になると共に温度上昇が速くなります。
ヒーター温度は物体の目的温度よりかなり高くするのが普通です。放射加熱の場合、熱源(ヒーター)温度の4乗と物体温度の4乗の差で熱流が決まるからです。
熱風炉(対流炉)は物体と熱源が接触するため、熱源温度は目的温度以上に上げられず加熱が進むにつれ内部への熱流は低下していきます。熱流は熱源の温度と物体の温度との差で決まるからです。そのため加熱時間がかかることになります。

5.人体を温める場合、皮膚へはどんな作用が起きるのでしょうか。

 赤外線が皮膚に放射されると可視光(~0.78μ)や近赤外線(0.78~2.0μ)では反射率が高い。透過率を見ると近赤外線は20%ほど1mm内部まで透過・吸収されている。すなわち近赤外線は人間の皮膚に対して反射率も透過率も高いのが特徴であります。
 2μより長波長になると反射率は低くなり吸収率が高くなる。長波長赤外線は反射率が低いためほとんどが皮膚のごく浅いところで吸収されます。
皮膚の温度感知部は0.3mm以内の浅いところにあることが多い。従って遠赤外線は皮膚の表面近傍でほとんど吸収されるので暖かく感じます。
近赤外線は温度感知部が暖かいと感じたときは皮膚はひりひりするまで熱せられているかもしれません。ただ近赤外線の熱源の温度はかなり高いため焼き過ぎになっていることが多いようです。
同じエネルギーを与えた場合、遠赤外線は殆ど吸収され熱伝導で内部まで浸透していくが、近赤外線は反射率が大きいため内部まで透過吸収される熱量は小さいとも言えます。

6.水分乾燥に遠赤外線加熱が良いといわれる理由を教えてください。

 遠赤外線加熱とは電磁波の吸収による物体の格子振動や分子振動の励起と言われています。水においてはH2OのO-H結合の対称・非対称伸縮運動は 2.73と2.66μであり約3μです。O-H結合2ヶの対称変角運動は6.27μで約6μと覚えてください。
12μ以上の所にある幅のある吸収は分子間の振動です。 水分の乾燥には 3・6・12以上の放射波長が必要で、そこで振動が励起されエネルギーが吸収され発熱し伝達される訳です。
すなわち遠赤外線加熱が有効である理論となっています。ただこの基準振動モード3種はよく知られているところですが、水分子はエネルギー状態が異なるいくつかの水素結合状態にあります。
水は実際にはクラスターとして存在し高分子物質とみても域的に吸収帯を持ちます。水への吸収が良いため水分乾燥への遠赤外線加熱は有効です。
ただ平均されない水、例えば洗浄後の転々と残っている水滴は不均一な加熱になりますから水切りをしてから乾燥してください。そうでなければ水滴の部分の加熱は遅くなり他の部分が過熱となります。

7.中赤外線と遠赤外線の違いは何でしょうか。

 日本では、有機物や高分子物質は3μ以上の長波長域にほとんどの赤外吸収があることから3μ以上の波長を放射するヒーターを遠赤外線ヒーターと称しています。
日本の一般的な遠赤外線ヒーターの表面温度は600℃前後が多く黒体に照らし合わせるとピーク波長は3.3μで3μ以上の放射量は全体の80%以上となります。
一方ヨーロッパでは既存の赤外線ヒーターを分類するとき、発熱線の温度から理論上の物体である黒体の放射エネルギーのピーク波長に照らし、2000℃のヒーターは1.27μであり、2μ以下の放射エネルギーは57%、5.5μ以下の放射エネルギーは90%にもなります。
 1000℃のヒーターのピーク波長は2.28μであり、2~4μの放射エネルギーは48%であることから、前者(2μ以下)を近赤外線ヒーター、後者(2~4μ)を中赤外線ヒーターと称しています。
そして4μ以上の放射波長を持つヒーターを遠赤外線ヒーターと分類しています。しかしながら1000℃の遠赤外線ヒーターの3μ以上の放射は55%以上あります。
この考え方では遠赤外線にするためピーク波長を長波長側に持ってくれば温度は下がります。それでは加熱効率が上がりません。例えば黒体型で4μ以上のピーク波長を持つヒーターの表面温度は450℃以下となります。
実際にものを加熱するのはピーク波長がどこにあるのかではなく、長波長側すなわち遠赤外領域にどのくらいエネルギーが放射されているかが加熱効率に関わってきます。
このことから日本の遠赤外線の分類方法は非常に合理的だと思います。

8.黒体とは黒色物体の事ですか。放射率と黒体について教えてください。

 放射率は黒体放射の比として表されます。測定対象と同一温度でのそれぞれの波長毎の放射強度を測定して横軸に振動数か波長、縦軸に黒体と同一の場合1とし0から1の表にグラフ化します。
 そうすれば波長毎の放射率が表されることになります。
 黒体放射は温度調節機能の付いた黒体炉の空洞に開けられた小さな穴から放射されることを言います。
 黒体とはすべての電磁波を完全に吸収する物体で、断熱された密閉空間で空洞の壁の小さな穴から入った電磁波は出てこれない完全吸収体の事で放射率1となります。

9.食品の加熱乾燥に遠赤外線加熱を導入したいと思っています。

 シラス干しや焼きのり等、工業製品と同等な乾燥工程で処理できるのであれば、測定器による水分、脂肪、たんぱく質の一般組成や変性、酸化度の測定で評価できます。
しかし一般的には加熱乾燥後の評価は科学的に判断できない極めて難しい問題を抱えていることが多いものです。
品質評価には製品の光沢、色、香味、見た目、歯触り、食味、食感等総合的な判断、いわば主観的な要因で決めることが多いようです。しかも評価する人の体調の変化や個人差に影響されることもあります。
遠赤メーカや装置メーカーが評価することはほとんど不可能で、導入予定メーカーが主体となって進める事が肝心かもしれません。

10.プラスチック製品のアニール処理したいのですが、遠赤外線加熱は効果がありますか。

 トナーケースやPC部品やヘッドランプハウジング等のプラスチック成型品は金型内に加熱した樹脂を流し込みある程度冷却してから取り出します。
その際金型内部の位置によりプラスチックに温度差が生じるので歪みとなります。これが寸法の変化、結晶化、耐候性劣化等さまざまな物性低下の原因となっています。そこで再加熱し歪みをとることをアニール処理といいます。
この処理には精密な温度分布と正確な温度制御が必要になり遠赤外線加熱の得意とする分野となります。従来は熱風式の固定炉で時間をかけて処理していましたが、遠赤加熱の場合短時間で物性変化をなくせます。

11.遠赤外線加熱は加熱方式としてどの区分に入りますか。

 物を温める(加熱)には3種類の方法があります。

1. アイロン掛けや鉄板焼きあるいはカイロのように物体を熱源に接触させ、直接熱を移動させる加熱を伝導加熱といいます。

2. エアコンのように熱源により暖められた空気を送ることにより室内を温め暖房したり、湯沸かし器で加熱したお湯を浴槽に送ることにより、その熱をもらい人体を温めることを対流加熱といいます。

3. 電気ストーブやトースターのように熱源と直接的にも間接的にも接触しないで、熱源から離れたところで直接熱を受け加熱することを放射(輻射)加熱といいます。そのため真空中でも加熱できるのが大きな特徴です。

4. よく質問される電子レンジは全く違う加熱方法です。熱源はなく一定の波長の電磁波をだし相手の物体にある水分子運動を励起し発熱させる方法で放射加熱とは言いません。

12.初歩的な質問ですが、電圧とワット・電流の関係について教えてください。

 電圧が2倍になるとワットは4倍になります。
100V、1KW仕様のヒーターを200Vで使用すると4KW出力となり危険です。
逆に200V,1KW仕様のヒーターを100Vで使用すると0.25KWしか出ず温度不足となります。
200V電源の場合、コストの面から単相では使用せず、3相で使用します。
デルタ結線ではヒーターはそのまま使用できますが、スター結線にする場合はヒーターはW数はそのままで115V仕様で設計します。
どちらも使用電流は単相の場合の1/√3になり経済的です。

13.太陽光は遠赤外線のため、ポカポカと暖かいのですね。

 日向ぼっこがぽかぽか暖かいのは遠赤外放射だからという人がいます。
 太陽の表面温度は6000Kと言われています。。
地球からの距離1.5×108Kmの真空中を8分20秒かけて電磁波として飛んできます。
 太陽は高温であるから放射エネルギーの内訳は紫外線として8%、可視光線として44~53%、赤外線として39~49%、その内の近赤外線がほとんどで遠赤外線量はわずかです。
 赤外線のうち2μ以上は6%、3μ以上の遠赤外線は2%しかありません。
 昔から行っていたシラス干しは遠赤外線加熱炉にして飛躍的に効率が良くなったのはご存知でしょうか。
 太陽からのエネルギーは 2cal/c㎡・min=1.36KW/㎡なのにに比べ遠赤外加熱のエネルギーは 10kw/㎡くらいあります。
 短時間に乾燥できるわけです。
しかも室内乾燥ですから衛生的です。また短時間に処理できることから栄養学的にもうまみ成分や風味等飛んでいきません。

14.被加熱物の吸収よ帯に合致する遠赤外線ヒーターのピーク波長でヒーターを選定すべきですね。

 各遠赤ヒーターメーカーから分光放射率カーブを取り寄せ、そのピーク波長と自社の加熱物の吸収体と比較しヒーターを選定している場合がありました。
これはWienの変位則の誤った用い方です。 λT=2898μm・Kから求められる黒体での放射エネルギーが最大の波長でありますが、実際には積分放射エネルギーはその波長より短波長側が25%、長波長側が75%なる点でありどのピーク波長においても同比率です。
従って遠赤外線ヒーターを使用する場合、ピーク波長に重点を置くのではなく被加熱物を効率よく加熱できる温度を探るほうが実際的です。
ピーク波長にとらわれると必要な温度とはかけ離れた処理温度になり、遠赤外線加熱は駄目である結論になるかもしれません。

15.分光放射率の測定はどうするのでしょうか。

 遠赤外線ヒーターの効果を確認する方法の内の一つに波長毎の放射率を測定することは可能であります。
 これを分光放射率といい測定方法はJIS R 1801に規定されています。
 測定器はフーリエ変換赤外分光装置で略してFTIR装置といいます。
 大型で高価なため多くは公的機関に設置されています。
 原理は光の干渉波形を空間や時間の関数として計測し、フーリエ変換することによりスペクトルを得る装置です。
 現在ではFTIRでの分光放射率測定が主流となっています。
 得られるグラフは横軸が振動数(波長)で縦軸は1(黒体)から0となっています。
 各波長で1に近ければ近いほど黒体並みの放射率ということになります。
 ただこれは各波長毎の黒体との比率であり遠赤外域の放射エネルギーの測定ではないことに注意してください。
 測定で難しいのは 光源である黒体炉の温度と試料の表面温度を正確に測定することです。
 かなりの技術と慣れが必要で測定する人や、測定機関により違った結果が出ることも多々あります。

16.遠赤外線放射輝度と放射照度がこんがらかってよく理解できません。

 遠赤外線の表面より単位面積、単位立体角当たりに放射されるエネルギー(W)で光源発光の明るさを示す物理量を放射輝度(W/cm2/str)といいます。
 波長毎の放射輝度はプランクの式より分光放射輝度として表されます。
 求められたグラフは〔遠赤外線の基礎 Ⅶピーク波長と放射エネルギー分布〕を参照ください。
 温度が高くなるにつれ放射輝度は高くなりピーク波長は短波長側に移動していきます。
 このプランクの式により求める温度の放射輝度を波長毎に積分することにより放射輝度が求められます。
放射輝度
 このことから輝度は温度の4乗に比例することが分かります。ステファンボルツマンの式と呼びます。
 すなわちヒーターの温度をわずかに上げるだけで加熱効果は増大することになります。
 放射輝度は熱源表面から放射されるエネルギーですが、逆に受け取る側のエネルギーを放射照度といいます。
 蛍光灯からの光を測定する照度計はありますが、残念ながら赤外波長を測定するものは現在のところありません。
 放射輝度と放射照度は全く別の物理量なのです。

17.遠赤外線に関するJISはありますか。

遠赤外線に関するJISについては下記の3点で遠赤外線ヒーターについては通常のヒーターとしてのJISが適用されます。

● JIS Z 8117  遠赤外線用語

● JIS R 1801  遠赤外線ヒータに放射部材として用いられるセラミックスのFTIRによる分光放射率測定方法

● JIS R 1803  遠赤外ヒータの遠赤外域における分光放射エネルギーの測定方法

18.加熱炉は経年劣化すると思いますが、その理由と対策を教えてください。

 遠赤外線加熱のテストをし導入した加熱炉は、おそらくテスト結果通りの加熱効果を発揮していると思います。
 そこで殆どのユーザーの生産技術は試運転結果からその加熱炉の能力を100%と規定するかもしれません。
 しかし加熱炉は使用始めから1年くらいが炉壁の汚れ、反射板の汚れ、ヒーター表面の汚れ等により一番能力が落ちる期間です。
 それを過ぎると安定するかそれほど効率は落ちないと思います。
 特に塗装ラインにおいて塗装室からコンベアまで自動化されている場合、塗装ミストが炉内に入り炉壁等を汚します。
 そこで炉の効率はそれを見越して80~90%を100%と見た方が良いと思われます。
 何年か経過しそれ以上落ちた場合は他の原因すなわちヒータ-の劣化やセンサーの異常等、検査することになります。

19.塗料の乾燥は熱風炉に比べ遠赤炉のほうが明らかに速いのはどうしてですか。

 メラミン塗料の乾燥硬化は130℃ 3分加熱がスペックとなっています。
 しかし対流加熱(熱風炉加熱)の場合、130℃雰囲気に直接触れると塗装表面の温度が急速に上がるため膜を張り内部の溶剤が閉じ込められることになります。
 塗装内部の温度が上がると溶剤の蒸発のため発泡現象やクラックが生じます。
 これを避けるため130℃まで徐々に昇温させ塗膜厚み方向全体から溶剤蒸発を行わなければならないのです。
 これをセッティングとすれば硬化完了まで約20分ほどかかることになります。
 これに反し遠赤外線加熱ではセッティングなしで、例えば表面温度500℃のヒーター加熱炉中では約3分で塗装品は130℃~150℃に到達します。
 それで取り出しても塗膜硬度や他の品質も熱風加熱よりも優れることが多いのです。
 遠赤加熱は有機物に吸収が非常に良いので塗装表面で大量にエネルギーを吸収し、熱流として塗膜内部に熱伝達するのが殆ど瞬時のため塗膜表面と内部が殆ど同じ温度になります。
 そのため塗膜全体から溶剤が抜けていきます。これがピンホールやクラックが起きない理由です。

20.遠赤外線はいつから利用され始めたのですか。その歴史を知りたいと思います。

 赤外加熱を最初に工業的に使用したのはアメリカフォード社であったといわれています。
 1938年に赤外線電球(近赤外線)による塗装焼き付けをはじめました。まだ最近の事といっても過言ではありません。
 ヨーロッパではフランスのルノーやプジョーも赤外線ランプによる加熱方式を採用しました。
 戦後まもなく日本にも導入され、約10年間にわたって赤外放射源、測定方法、利用方法など各分野で研究され実用技術として定着しました。
 同時に加熱源の生産も始まり、塗装乾燥だけでなく加熱にもよく利用されてきましたが最近ではほとんど見られなくなりました。
 1960年代になって、石英管ヒーター(中赤外線)が実用化され現在も使用されています。
 1960年代に日本では遠赤外線の知名度が全くない時に遠赤外線ヒーターと称し販売開始したアメリカインディアナ州の会社がありました。
 しかし輸入販売契約する寸前に日本でドライクイック(Dri Quik)が商標登録されていることが判明しキャンセルとなりました。
 そこでシーズヒーターに遠赤放射セラミックを溶射することにより同様な効果が得られることが分かり製造販売を始めました。
 東京オリンピックころからテレビの需要が大きく伸びブラウン管や本体への遠赤外線加熱の効果が認められ、さらに高度成長期に入ると三種の神器(テレビ・せんたく機・冷蔵庫)の大量生産に遠赤外加熱はおおいに貢献しました。
 1970年代に入るといろいろな業界で使用され始め、1980年代になると加熱技術の開発が活発に行われ加熱源メーカーも多く見られるようになりました。
 加熱処理が短時間で行われることから生産量Upあるいは設置面積の短小化、自動化を目的として、自動車の塗装から始まり、自動車の各部品塗装、家電品、木工品と用途は広がりましたが主に塗装関係でした。
 それは赤外加熱が普及するにつれこれに適したメラミン樹脂塗料が開発され、塗膜表面硬度が高く美しい塗装が可能になったことから特に金属製品の塗装すなわち自動車関連や家電関連に多く使用されました。
 その後カメラ、フイルム、紙製品、ゴム製品、プラスチック等と加熱や乾燥するものに広がりました。
 そして温度分布の均一性が評価され、基板のリフロー、各種製品のアニール、ガラス基板の洗浄後の乾燥にも使用され始めました。
 最近では多くのものがクリーンルームで生産されるようになり、クリーン加熱には最適な遠赤外線加熱が活発に利用されています。

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21.170601 遠赤外線ヒーターにはどんな種類がありますか。

1. パイプ式ヒーター

 セラミックパイプあるいは表面に遠赤放射セラミックをコーティングした金属パイプの中央内部にコイル状発熱体を設置したもので反射板と共に使用する。
通常空洞パイプ中にコイル状発熱線が設置されているため縦使用だと発熱ムラが起きやすくなる。

2. 金属棒式ヒーター

 金属管(シーズヒーター)の表面に遠赤放射セラミックをコーティングしたもので反射板と共に使用する。パイプ中のコイル状発熱線は絶縁体で堅く固定されているので縦使用でも温度ムラはなく寿命も長い。連続生産できるので安価である。

3. セラミックプレート式ヒーター

 セラミック板ヒーターあるいは金属製プレートヒーターに遠赤放射セラミックをコーティングしたもの。機械加工工程があるので価格は高くなりやすいが、1ヶからの特型生産ができる。

4. セラミック鋳込み式ヒーター

 型に発熱線を配置しセラミックを流し込み焼成した小型セラミックヒーター。大きなサイズは焼成中ひずみが起き易いので小型サイズとなる。ロット生産が殆どなので特注品は時間と手間がかかる。

5. 其の他

熱源に電気でなくガス・蒸気を使用したものもある。蒸気仕様は防爆形ができる特徴がある。

22.170701 近赤外線と遠赤外線はどんな違いがあるのでしょうか。

 日本では3μ以上を遠赤外線、それ以下を近赤外線といいます。
ヨーロッパやアメリカでは近赤外加熱で大電力での大型設備での高速大量処理が行われています。
電気代が安く、土地代が安く人件費も安いからこそ可能な方法で我が国ではとても採算が取れません。
そこで効率が良いため、また高品質な仕上がりが期待できる小型設備で処理可能な遠赤外線加熱が考案されました。
連続生産できるため省力化も可能になり昭和40年後半から盛んに開発されてきました。
遠赤外線ヒーターの放射波長は3μ以上ですが、その波長分布は配合セラミックの種類により差異があります。
どういう配合セラミックを使用するかはメーカーごとのノウハウになっています。
そのため近赤外線と違い放射波長は各メーカーにより異なります。
しかしそのことが問題になることはありませんでした。
 結論は3μ以上の放射波長を持つヒーターを使用すれば、加熱炉のエンジニアリングのほうが重要になり、その性能を左右するからです。
近赤外ヒーターの放射エネルギーは一定であり波長分布はプランクの放射式によります。
発熱体が金属フィラメントであり、ガラス管の中に不活性ガスと密封されています。
そのため直接発熱体の温度は測れませんが、2000℃のフィラメントからの最大放射波長は約1.3μです。
そこで2ミクロン以下の最大波長を持つヒーターを近赤外線ヒーターと称しています。
1000℃のフィラメントからの最大放射波長は約2.3μですので2~4μの最大波長を持つヒーターを中赤外線としています。

23.170801 遠赤外線の文献でよくみられる用語がよく解らないのですが。

放射エネルギー J

エネルギーは単位時間当たりの大きさで評価します。記号はQeで表す。

放射束 W

遠赤外線は電磁波であることから単位時間内の放射エネルギーことを言う。
※実用的には以下の放射発散度や放射強度で定量化されることが多い。

放射発散度 W/C㎡

微小面から出る放射束を面積で割った値(電磁波の電力密度) 記号はMe

放射強度 W/st

点放射源からある方向の微小立体角へ出る放射束をその立体角で割った値
(ワット毎ステラジアン)記号はIeで表す。
※放射強度を比較する場合、注意しなければならないことは
その計量が同一波長域でなければ意味がないことです。

放射輝度 W/st・㎡

放射源の微小面からある方向への放射強度をその方向への正射影面積で割った値。
記号はLeで表す。

放射照度 W/㎡

微小面に入射する放射束をその面の面積で割った値。 記号はEe
※光のように簡易的に測定できる装置は未だありません。

放射強度と放射照度の関係

ある面における放射照・度は放射減の強さに比例し、
放射源からの距離(L)の2乗に反比例する。 Ee=Ie/?2(W/m2

JとWの関係

エネルギーは単位時間当たりのJ(ジュール)で表されるが
電磁波の場合はW(放射束)で表すので J/sec=Wとなる。

K(ケイ)

熱力学的温度で絶対温度と呼んでいる。 0℃=273.16K

μ

通常μmで表わし長さ(波長)の単位である。1μm=10-6m

cm-1(カイザー)

赤外分光学では波長を用いずに1cmに存在する波の数(波数)で赤外線を分類する。
波数(cm-1)=10000/波長(μm)

W/m

プランクの放射則から得られるエネルギー単位である
W/m =W/㎡・m=10-10W/cm・μm
物体表面の1?の面積から空間に放射されているエネルギーのうち、
波長区間1μmの幅の中に含まれる放射エネルギーが毎秒何Wということを表している。

24.170901 塗装乾燥の方法はいろいろありますが、それぞれの特徴を教えてください。

塗装乾燥の種類には、塗装前の洗浄後の乾燥、塗装後の溶剤の乾燥、塗装後の焼付があります。従来は熱風乾燥が主流でしたが、最近では近赤外線や遠赤外線が多く使用されるようになってきました。それぞれの特徴を整理しましょう。

1. 熱風乾燥

熱源で空気と熱交換を行って強制対流により塗膜に熱を与える方法であります。

1)被加熱物の大小の混合物でも均一に処理できます。同様に塗装色による差異も起きません。

2)目的温度で加熱すると初期に塗装表面に膜を張ります。その後塗膜内部の溶剤が塗膜を突き破りピンホールができます。これを避けるため低温長時間加熱で溶剤を蒸発させてから目的の温度で目的の時間加熱します。そのため処理時間がかかります。

3)対流で風を送るためゴミの発生が起きます。

2. 近赤外線乾燥

ガラス管内に不活性ガスを封入しタングステンフィラメント等の熱源を取り付けた波長の短いヒーターでの加熱乾燥。

1)ヒーターの立ち上がり時間が非常に短く軽量のヒーターを使用した乾燥方法。

2)不活性ガスを使用しているのでヒーターの電力密度を大きくとれる。

3)クリーン加熱である。

4)塗料の色差による温度差が大きい。

5)機械的衝撃に弱く寿命も短い。

6)乾燥室内の雰囲気温度が上がらず陰になった部分の昇温が遅い。

7)塗料は一般的に近赤外線領域での吸収体は少ないため、急速加熱ではワキと言われる発泡現象が起きるためセッティング時間が必要となる。

3. 遠赤外線乾燥

波長が3μ以上の熱源を使用したものを遠赤外線加熱と言います。使用システムは近赤外線乾燥と近似していますが、波長の違いに起因する加熱現象の違いが大きな特徴であります。

1)塗料の色差による温度差が小さい。

2)塗料は遠赤外線吸収率が大きいため塗膜品質を損なうことなく短時間加熱が可能である。

3)温度制御が容易なため良好な温度分布が得られ、品質の向上も得られる。

4)クリーン加熱としても有効である。

5) 立体的な被加熱物の場合、陰になるところの昇温は遅いので、ワークを回転させるか風を併用するか工夫が必要である。

25.171001 遠赤外線放射源には何がありますか。遠赤を良く反射する物はなんですか。

 遠赤外線放射源として放射率の良い物質を選択するのは当然であるが、発熱体として使用するのであるから 耐熱性・耐熱衝撃性(耐サーマルショック)・機械的強度・寿命の検討が重要であります。
高温耐熱800℃以上で放射率が良く、耐熱性があり、サーマルショックに強い物体は酸化物や炭化物になります。
全放射率が0.7以上の物は酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、ジルコン、酸化バナジウム、酸化イットリウムや炭化クロム、炭化モリブデン、炭化ケイ素、炭化イットリウム等になります。
3μ以上の領域で放射率をよくするためこれらの物質の混合あるいは固溶体等で発熱体を作成します。
 しかしセラミック材料は固有抵抗が大きく抵抗発熱など直接電気エネルギーを熱エネルギーに変換することはできません。
そこで別の熱源で遠赤外線放射体を加熱し遠赤外線ヒーターとします。
この遠赤外線放射発熱体を加熱炉で使用する場合、効率化を計ろうとして炉壁も同物質や遠赤外放射の良い物質を使用する場合があります。
 これは発熱体からの遠赤放射を炉壁が吸収し、加温されそこから2次的に放射されるのを目的としたものです。
しかし炉壁は発熱体と比べ温度的に被加熱物を加熱するほど昇温しません。
考えすぎで実際には反射率の良い物質を炉壁とし、発熱体の熱を効率良く炉内に反射したほうが良い結果となります。
反射率の良いものにアルミニウム、鉄、ステンレス、金等があります。
耐熱性、価格からステンレスの炉壁が一般的になります。

26.171101 そもそも電気加熱とはどんなものか教えてください。

電気による加熱は熱の発生・伝達方式により以下のように分類されます。

27.171201 炉壁にはどんな断熱材を使用したら良いのでしょうか。

加熱炉の断熱には耐火材・断熱材・保温材が使用されますが、それぞれの区分は明確ではありません。
使用温度の高い順に並べてみました。耐火材は炉の内部材として、断熱材は炉内部からの熱伝導を遮断するため内部材として、保温材は熱の拡散防止として使用されます。

◎ 耐火材

耐火煉瓦と不定形耐火物があります。炉のシール性が良いので最近では不定形耐火物が広く使用されています。両者とも高融点の酸化物からできています。

◎ 選定方法

 加熱炉においては炉壁熱損失や炉壁の構造・材質・厚さにより断熱材等を決定し、外壁の温度条件により断熱材の厚みを決定します。
また炉の使用条件も重要です。連続炉なのか操業時間はどうなのか検討する必要があります。加熱炉導入側は炉材まで選定することは困難でありますから、あまり高価にならず過剰品質にならないよう炉メーカーと打ち合わせをすることが良いと思います。

28.180101 熱の伝わり方について基礎的なことを知りたいのですが。

伝熱とは 伝導・対流・放射の3つの様態があることは学校での理科で学習したとおりです。

伝達されるエネルギーは伝導では熱が媒体中を伝わり、対流は加熱された媒体が温度差により移動して伝わる熱エネルギーです。
放射による伝達は熱エネルギーが電磁波に変換されてから 被加熱物に吸収され熱エネルギーに変換されます。
これを放射加熱といい近赤から遠赤までの赤外放射加熱といいます。
赤外線といったほうが通りがいいのですが学術的には線とは言わず放射といいます。レイ(Ray)ではなくラディエイション(Radiation)です。

それぞれのエネルギーの計算式は以下になります。

伝導Q=λ・A(T-T0)/b  Kcal/h

対流Q=α・A(T-T0)  Kcal/h

放射Q=4.88{ε・A(T/100)4―ε0・A0(T0/100)4} Kcal/h

(注)

伝導・対流・放射

伝導と対流は 被加熱物は加熱体との温度差のエネルギーを受けるだけですが、

放射加熱はそれぞれの絶対温度の4乗の温度差で熱を受けるので効率が良いのです。

29.180201 遠赤外加熱による木材塗装は難しいと聞いていますが。

 金属塗装やプラスチック塗装と違い木材塗装する場合、大きな違いがあります。
塗料がラジカル反応する 不飽和ポリエステル樹脂塗料、 油ワニス、 酢酸ビニル樹脂塗料 、スチレン、 メチルメタアクリレート などの塗料を使用した場合、重合できなかったり、 反応時間が遅くなったりする現象が起きるという報告があります。
 この重合阻害については多くの研究が行われ、木材中のフェノール系成分が原因であるといわれています。
文献によると不飽和ポリエステル樹脂の重合阻害をする木材はスギ、ケヤキ、カキ、ローズウッド、マホガニー、さくら、チーク材等多数あります。スチレンにはスギ、カラマツ、ヒノキ、マカンバ等、また塩化ビニリデンにはスギ、エゾ松等が重合阻害を起こすようです。
 防止対策してポリウレタン樹脂シーラーの下塗りにより木材との接触をさせないようにする方法と木材をアセチル化して阻害物質を不活性にする方法がとられています。
 塗装された木材を強制乾燥するには、木材の含水率、雰囲気湿度を一定に保つように加熱温度と湿度と換気に注意することが重要です。
 また、木材の寸法変化を起こさないようにするには含水率を10%に保つことが重要です。
さらに重要なのは 塗装する前に木材を十分乾燥させることです。
木材に含まれている水分は通常の水分乾燥と違い、表面とか内部に含浸している水分だけでなく木の中を通る導管に水が残っているからです。これを抜くのはなかなか困難です。時間をかけて乾燥しなければなりません。

30.180215 遠赤加熱で金属材料の腐食は起こりますか。

遠赤外線加熱炉や遠赤外線ヒーターを使用する場合、周囲の状況により腐食することがあります。

金属材料に発生する腐食の形態は、いくつかに分類されます。大きく分けると全面腐食と 局部腐食に分けられます。

腐食

1. 全面腐食は均一腐食と不均一腐食(まだらな腐食)に分けられます。

2. 局部腐食の形態はいくつかあります。

孔食腐食、隙間腐食、異種金属接触腐食、応力腐食割れ、粒界腐食、選択腐食、擦過腐食、微生物腐食等に分けられます。
その中で金属単独では問題ないのに他の金属を接触させたときに腐食反応が進行するのを異種金属接触腐食といい、我々に関係する場合があるもしれません。
例えば鉄や黄銅とアルミを接触させた場合、接触部近くでアルミの腐食が起こり進行していきます。
鉄と亜鉛では亜鉛が先に腐食します。これはトタン板の例ですが鉄に亜鉛めっきするのは鉄が錆びる前に亜鉛の腐食を先にさせ鉄を守るためです。
塗装された炭素鋼をSUS製ボルトで組みつけた場合、もし塗装が1部はがれると炭素鋼の腐食が始まり進行します。
異種金属同士接触させる場合は互いに塗装し塗膜で絶縁することが安全につながります。

31.180301 遠赤外線ヒーターの放射体は何でできているのでしょうか。

工業用放射体として重要な性質は 分光放射率・耐熱性・熱衝撃性・機械的強度等であるといえます。
遠赤外線放射体としては 黒体のように全波長領域においてフラットに放射率の良いものと4~5μ以上の波長域において放射率の良いものとの2種類のヒーターが現存します。
それを区別するため前者を黒体型ヒーター、後者を遠赤外線ヒーターと呼ぶ場合があります。
しかしどちらも遠赤外線ヒーターと呼ぶのが一般的です。
遠赤外線放射体として多く使用されているのはセラミックスです。
ジルコニア、アルミナ、チタニア等を主成分とするセラミックスで4~5μ以上の波長域の放射率が高く遠赤外線放射体に属するものです。
すなわちコージライト、β‐スポンジューメン、チタン酸アルミ等があります。
またセラミックヒーターの表面にさらに酸化リチュウム等を加えた釉で施釉した放射体も報告されています。
しかし黒体に近い放射率を持つものが望まれ、それには遷移元素酸化物を配合すればよいと古くから考えられていました。
2酸化マンガン、2酸化鉄、酸化コバルト、酸化銅、酸化クロム等の酸化物の2,3種類の焼結体を粉砕し、耐熱無機塗料として実用化されました。
3~5μ領域の放射率が黒体に近くなり現在も使用されています。黒体型放射体といっています。

32.180315 遠赤外線加熱で化学反応を起こせますか。

 電界と磁界によって生じる波を電磁波といいます。
光と同じ挙動をするので光も電磁波の一種といえます。
光とは可視光線だけでなくそれよりも波長の長い近赤外線・遠赤外線や短い紫外線・X線、γ線も含みます。

電磁波のエネルギーは次式で表されます。

【 光量子エネルギー 】

 eV(電子ボルト) =1.2398/λ

 1eV=1.6022×10-19J

以上から分かること

  1. 波長が短いとエネルギーが強く、波長が長いと弱くなる。
  2. 遠赤外線といわれる3μ以上のエネルギーは0.4~0.001eⅤである。
  3. 物質の化学反応(共有結合・イオン結合)のエネルギーは6~1eVであり、水素結合のエネルギーは0.08~0.35eVである。
  4. 従って 遠赤外線には化学反応を促進させる力はなく、ほとんどが熱エネルギーに変換されることになります。
  5. 結論として遠赤外線加熱は物質の加熱に特徴的に利用することになります。殺菌についても熱による殺菌の効果になります。
33.180401 セラミックヒーターの表面の材質は何ですか。

 湯飲み茶碗やコーヒーカップの表面はつるつるしていますが、これは汚れにくくするためや水のしみ込み(吸収)を防ぐためまた強度を上げるためや装飾のために、うわぐすりを塗っているためです。
陶磁器の表面にあるうわぐすりを釉薬といい、塗布することを施釉といいます。
施釉する前の陶磁器は素焼きです。
素焼きに施釉し本焼きすると陶磁器の表面はガラス層になります。
釉薬は釉薬を溶かす石灰質材料と素地と接着させるアルミナ系材料とガラス質になるシリカ系材料から作成します。
材料としては長石、石灰、カオリン、珪石、マグネサイト、ジルコン等があります。
陶磁器の素地は 粘土質と長石、珪石等でできているので釉薬の成分もそれに近いと安定性が良くひび割れしたり剥離したりしません。
いわゆる相性が良いということになります。
陶磁器に使用される釉薬の種類は多数の種類があります。
焼く温度による種類、長石が主原料の志野釉、
植物由来の灰と土石類からできる青磁釉、
無色の透明釉、
釜で自然につく自然釉、
色別では銅化合物から作る銅釉、
鉄化合物からできる鉄釉等酸化金属からできる色釉があります。
工業用セラミックヒーターも素地と釉薬から構成されています。
陶磁器と違うところは熱源として24時間365日使用で何年も故障なく使えなければなりません。それには素地も釉薬も耐熱性・熱衝撃性、長寿命、機械的強度、クリーン性等備わっていなければなりません。
そのために各社、成分の配合や材料等特許、ノウハウによって押さえています。
さらに金属酸化物や遷移元素等加えることにより遠赤外線放射率の良いヒーターとなります。

34.180415 放射率によりヒーター効率はどのくらい違いますか。

 放射率0.9の遠赤外線ヒーターと放射率0.7の遠赤外線ヒーターがあった場合どちらを使用するでしょうか。
当然0.9のヒーターですよね。しかし本当に0.9のヒーターのほうが良いのでしょうか。
仮に放射率1.0のヒーターと0.5のヒーターがあった場合、同温度の時、熱エネルギーが放射エネルギーに変換される変換率は50%となります。
しかし放射率0.5のヒーターは放射エネルギーに変換されない熱エネルギーは放射源に保持されたままになります。
放射源には次々とエネルギーが供給されるので放射源の温度は上昇することになり放射率1.0のヒーターより表面温度は高くなります。
つまり温度が高くなった分だけ放射エネルギー量は多くなり、放射波長は高くなった分だけ若干短波長側によりますがエネルギー総量は放射率1.0のヒーターと放射率0.5のヒーターも同程度になる可能性があります。
しかし温度が高くなった分だけ熱損失が増えるので放射率1.0のヒーターの方がエネルギー総量は多いはずです。
そうすると放射率0.9のヒーターと放射率0.7のヒーターではあまり差はないと考えるべきです。
ただ被加熱物処理には全放射率よりも分光放射率による特異性があることに注意する必要があります。
また加熱炉の設計技術の差により放射率以上の差が出る場合があります。
結論として加熱炉の設計が完璧であり、放射源の分光放射率が被加熱物の吸収特性に合致している場合は、放射率の高いヒーターを選択するのは当然のこととなります。
ただ遠赤外線ヒーターであるなら、放射率による効率の差は殆どないと言っても良いかもしれません。

35.180501 放射率溶剤乾燥用加熱炉の排気量計算について教えてください。

 塗装乾燥や有機溶剤を含むワークの加熱は爆発や火災の危険があるので十分気をつけ、それなりの対策が必要です。一般的なのは排気を十分にやりフレッシュエアーの吸気を行うことです。

「例」 遠赤ヒーター  上下設置 表面温度400℃、照射距離100mm

◎ ワーク  50×120mm×0.15t 10μ両面コーティング鋼板

◎ 混合溶剤使用量  156cc/hr 156×0.88=0.137kg/hr

【 溶 剤 】

◎ 溶剤の中の最低爆発限界値  0.01(1%)  発火点 225℃ 引火点 15℃

・混合溶剤の比重       0.88

【 発生溶剤蒸気量 】

0.23㎥/hr  溶剤1kgを1時間使用したときの蒸気発生量)

従って実際発生する蒸気は  0.23×0.137=0.032m3/hr

※ 200℃の時必要な排気量は  (273+200/273)×32=55m3/hr となります。

36.180515 プラズマ溶射による遠赤外線ヒーターとは何ですか。

 溶射技術は金属の防食や機械部品の肉盛り等金属材料の保護として発展してきました。
近年は時計やアクセサリ等の装飾技術として注目され幅広く採用されています。
材料はセラミックスで約3000℃の高温で溶解し、プラズマジェットで高速で金属基材(被加工物)表面に吹き付け溶着させるものです。
その結果、金属基材は元の性質と異なる物体となります。
これをプラズマ溶射といい、熱源は電気でセラミックス材料は造粒して用います。
 最近では金属基材以外にも用途を広げるため、熱源にガスを使い、セラミックスは粉体を使用した低温溶射(ガス燃焼式)も見られるようになりました。
高融点の材料はプラズマ溶射、低融点の材料を使用する場合はガス溶射と住み分けができます。
棒状の遠赤外線ヒーターは 古くからある金属であるステンレスを使用したシーズヒーター表面に遠赤外線を放射する複合セラミックスをプラズマ溶射したものがあり代表的な使用例です。
工程としてブラスト処理してヒーター表面を荒らし、互いの膨張率を縮めるためアンダーコーティングし、その上にプラズマ溶射します。
 しかしプラズマ溶射はポーラスなため耐食や耐絶縁等に不具合が生じやすく、またいかなる処理をしても金属とセラミックスの膨張率の違いから熱により剥離の心配があります。
そのため複合セラミックスに金属を混合しサーメットで溶射する方法もとられています。
しかし程度の差こそあれ同様な結果になる可能性もあり、遠赤放射体の割合が落ちることから遠赤外線放射性能も落ちます。
 そこで溶射技術に代わる遠赤外線放射素子の表面コーティング技術も発展してきています。
例えば遠赤外線放射複合セラミックスと無機バインダーで構成された材料をシーズヒーター表面に焼成させたものがあり、シーズヒーターの膨張に合わせることができれば金属表面の酸化は避けられ、剥離の心配も少なくなります。

37.180601 遠赤外線加熱炉の試運転で注意することは何ですか。

 遠赤外線加熱炉を最初に使用する場合、温度設定をしなければなりません。
熱風炉と違い雰囲気温度がワーク温度にならないため、目的とするワーク温度になるようにヒーター温度を設定します。
試運転時にセンサーを貼り付けたワークを流し、温度測定します。
あるいは加熱後のワークの状態をみて加熱炉のヒーター温度を決定します。
つまり加熱炉のヒーター温度が一定であれば常に同一品質のワークができるということです。
大量生産の場合で時々ワークが変わる場合で生産が止められない状態ではテストできないので小型試験器を設置しデーターを取ることも必要です。
雰囲気温度は炉内空気がヒーターに接触して自動的に上がるため制御はできません。
またヒーター温度が同一でも 炉の構造や排気により雰囲気温度は変わります。
 遠赤外線加熱炉の場合、雰囲気温度は一定であることが重要でその温度は問題視しません。
そのため熱風炉のように密閉式にするとヒーター温度が一定に制御されているため、雰囲気温度が徐々に上がり失敗します。
また雰囲気温度が場所による差異がないよう排気の風の強さと風の流れには気を遣うことも必要です。

38.180615 温度センサーは何を使用すれば良いですか。

よく使用されるのは熱電対と測温抵抗体です。

【 熱 電 対 】

 熱電対は2種類の金属で閉回路を作り、その接点に温度差がある場合閉回路内に電流が流れます。
接点の一方を熱接点、片方を出力部とすれば温度に応じた起電力が発生し電流に応じた温度が出力部で分かります。
現在8種類の熱電対がJISで規格化されていますが、よく使用されているのが、K熱電対とJ熱電対です。
K熱電対のエレメントはクロメルNI・Cr合金(+)アルメルNI・AL合金(-)で測定範囲は1200℃までですが還元雰囲気には弱い欠点があります。安いのが特徴です。
J熱電対は鉄(+)コンスタンタン(Cu・Ni合金)(-)で測定範囲は750℃以下ですが、還元性雰囲気には強い特徴があります。
起電力が高く分解能も優れているタイプです。
ヒーターに埋め込まれる以外、センサー保護のため通常使用されるのは金属細管(シース)に高熱伝導、高耐熱性があるMgOとともに密封されているシース型熱電対です。
最も多く使用される理由は機械的強度を持たせるためと酸化・還元性雰囲気からの保護と非接地型とした場合ノイズに影響されず使用できることです。

【 たまに見かけられる間違った使用例 】

  1. 熱電対と補償導線の接続点は同一温度の場所以外では温度に狂いが生じます。
  2. 補償導線を使用せず、電線で結線している例を見受けますが正しい温度は表示されません。

【 測温抵抗体 】

 金属はわずかの温度変化で電気抵抗が変化しますが、直線的に安定して変化するのが白金Ptです。
測温部の白金素子部は1000℃の耐熱性がありますが、熱電対と同様シース型センサーに仕上げると650℃以下が常用となり、200℃を超えるとシース系が細いと内部の白金や銅線が細くなりシースの熱膨張により不具合が生じる例があります。
特徴としては高精度の測定が得意であるが、比較的低温で使用され工業炉には使用されません。
補償導線は使用しません。
※測定計器は熱電対と測温体では共用できません。

39.180701 放射率は温度により変わりますか。

 通常の物体から放射される電磁波エネルギーは、それと同温度の理想物体(黒体)から放射されるエネルギーと比べて一般的に小さい。
前者の後者に対する比をその物質を構成する物質の放射率εといい、0から1までの値をとります。
一般に物質の放射率は電磁波の波長により異なり、その波長に対する特性はそれぞれの物質に固有のもので、これをその物質の放射スペクトルといいます。
放射スペクトルに示されるような波長別の放射率の事を分光放射率といいます。
分光放射率の全波長域にわたって平均値を用いる場合、全放射率といいます。
分光放射率は温度によらず一定と云ってよいでしょう。
もちろん温度が高くなると若干短波長側によりますが、その効果が変化するほどは変わりません。
 以下データによって示します。
サンプルとしてジルコン磁器を用い、200℃、500℃で分光放射率を測定した結果です。
ほとんど変わらないことから、分光放射率はその物質固有のものであることが分かると同時に温度が変化してもほとんど変わらないことが分かります。

200度Cの分光放射率 (放射スペクトル)

200度Cの分光放射率 (放射スペクトル)

500度Cの分光放射率 (放射スペクトル)

500度Cの分光放射率 (放射スペクトル)

40.180715 黒体型ヒーターと遠赤外型ヒーターは違うのでしょうか。

 遠赤外線ヒーターの放射率には、黒体と類似している全波長域においてほとんどフラットな放射率を持つヒーターと5μ程度までは放射率が低いけれどそれ以上の遠赤領域において高い放射率を持つヒーターの2種類があります。
前者を黒体型ヒーター、後者を遠赤外線ヒーターと区別して呼ぶことがあります。
一般的には両方とも遠赤外線ヒーターと呼んでいます。
実際の測定値を以下に示します。
A放射体は黒体型ヒーターです。
B放射体は遠赤外線型ヒーターです。
若干 黒体型ヒーターの方が効率が良いようです。
しかしこの程度ならば加熱炉の設計技術や使用方法による差のほうが大きく出る場合が多いので気にすることはないと思います。

図1. A 放射体分光放射率特性 (黒体型)

放射体分光放射率特性 (黒体型)

図2. B 放射体分光放射率特性 (遠赤型)

放射体分光放射率特性 (遠赤型)

41.180801 ヒーター設計の概要を知りたいのですが。

 メーカーに希望のヒーターサイズやW数を伝えると技術的にできませんとか物理的に無理ですと言われるのはなぜでしょうか。
ヒーターは棒状型(シーズヒーター、ストレートヒーター)は2W/㎠までしかできません。
それを超えると表面温度が上がり内蔵のニクロム線が過熱するためです。
しかし風が当たると表面温度が下がるので風速によりもっと容量が入れられます。
遠赤外線ヒーターにすると放射が良いのでヒーター表面温度が下がり4W/㎠迄可能です。
例えば800Lのヒーターであれば12φで1100Wまで制作できます。
しかしW数が小さくなると内蔵のニクロム線の径が細くなるため製作中に不具合が生じる恐れがあるので600W以上でしか製作できません。
パネルヒーターは遠赤外線ヒーターでも2W/㎠までしか製作できません。
では200V,650W,12φ、500mmLストレートヒーターを製作するにはどう設計するのでしょうか。
 まずニクロム線の必要な長さを計算します。
ストレートヒーター内にはニクロム線はコイル状に入り、そのピッチは線径の3倍以上が安全とされています。
コイルの巻径とピッチから500Lのヒーターに入るニクロム線の長さLを計算します。
 オームの法則からヒーターに流れる電流は3.25Aになり、抵抗値は61.5Ω必要です。61.5/L から抵抗値Ω/mが分かりますので ニクロム線の導体抵抗表からニクロム線の使用する径が分かります。
こうしてできたヒーターの抵抗値は冷間抵抗と呼ばれるもので、電流を流さない状態での抵抗値で、W数となります。
従って電流を流し温度が上がったときは、抵抗値は上がりますのでW数は計算値より下がります。
そこでヒーター表面温度500℃で計算値のW数を出すためにはニクロム線の抵抗増加係数を表から求め、導体抵抗×抵抗増加係数から実際のニクロム線の長さを計算します。

42.180815 まとめとして放射の基本法則を復習しましょう。
  1.  ブランクの法則

  2.  絶対温度以上の温度を持つ物体はその温度に応じたエネルギーを放射しています。
    黒体においてその温度と波長の関係を表したものをブランクの法則といいます。
    通常の物質は放射率が1以下ですので黒体のようにきれいな山形の曲線では表されません。
    また黒体と同じ温度なら黒体の示す山形の曲線より下に表され絶対に上には行きません。
    しかも温度が違っても曲線同士が交わることはありません。
    これは重要なことです。
    温度が高くなればなるほど放射エネルギーは高くなるので遠赤外線の放射エネルギーも高くなります。
    ただ近赤外線と遠赤外線の放射割合で考えると遠赤外線の割合は減っていきます。
    実際に遠赤外線を利用する場合は%ではなくエネルギーの強さや量なのでヒーターの温度が高い方が良いと言うことになります。
    参考のためHPの遠赤外線の基礎のピーク波長と放射エネルギーの分布を再掲します。

    【 ピーク波長と放射エネルギーの分布 】

    ピーク波長と放射エネルギーの分布

  3.  ステファンボルツマンの法則

  4. ブランクの法則により放射エネルギーの量は、ヒーターの温度が高くなるにつれ大きくなることは前項で述べました。
    放射エネルギーの量は絶対温度の4乗に比例することを表したのをステファンボルツマンの法則といい次式で示されます。

     E=5.6697*108*T4 (W/m2

  5.  ウイーンの変位則

  6.  ブランクの法則の図に各温度による放射エネルギーの頂点(ピーク点)を結んだ線があります。
    これは放射体の絶対温度が高くなるにつれ、ピーク波長は短波長側に移行することを表しています。

     ウィーンの変位則といい、 λ=2897/T (μm) で表されます。

     グラフのピーク波長から左側(短波長側)と右側(長波長側)の積算エネルギーの比は1:3になります。
    ピーク波長を基準に考えると常に長波長側の放射エネルギー量の方が多いと言うことになります。
    それも3倍も多いのです。
     それではピーク波長を離れて、実際3μ以上の波長を全体エネルギーの5割放射する温度は黒体において約1100℃です。
    ウイーンの法則によりこの時のピーク波長は2.1μになります。
    すなわち 1100℃から放射体の温度が下がるにつれ、遠赤外線が放射エネルギーのなかで割合を増していくことになります。
    しかし 実用面では温度が高い放射体の方が遠赤外線放射エネルギーは多くなると言うことを忘れないでください。